佐野研究室

植物資源を循環利用する緑豊かな地域環境の創造を目指す

佐野研究室では研究室の名前を「緑地環境資源研究室」と称して、生態学の視点から適切に緑地環境を管理・利用するための研究に取り組んでいます。緑地生態系の構造や機能など「成り立ち」を解明し、環境負荷の少ない利用法を提言する「緑地環境の評価」と、植物資源をエネルギーやマテリアルとして循環的に利用するための手法を開発する「植物資源の利用」という2つのテーマの融合を図り、緑地環境の保全と利用の両立した持続的な社会の実現を目指します。

 

 

 

 

 

 

 

緑地環境の評価に関する研究

「奥山の森林」、「里山の雑木林」、「植林地」、「農地」、「道路脇の法面緑地」、「都市公園の緑」、「街路樹帯」、「屋上緑化施設」など植物があるところならばどこでも研究対象となりますが、現在は以下のテーマに注力しています。

津波被災跡に造成された広葉樹植栽地のモニタリング


現在仙台湾沿岸域では、東日本大震災の津波被害を受けた防潮林の再生事業が、被害状況の調査に基づいて出された2つの方針に基づいて進められています。1つ目の方針は、「十分な林帯幅と多様な森林構成を確保する」というもので、これは十分な林帯幅を確保し、かつマツ以外の多様な広葉樹種を植栽することにより、複層構造、高立木密度を達成し、津波威力の減衰効果の向上を狙うというものです。2つ目の方針は「人工盛土による地盤高の確保」というもので、これは、地下水位が高い海岸林では、樹木の根系発達が不十分で倒木・流木の被害が多くなったという見解を受け、人工盛土により地下水位よりも2~3m高い地盤高を確保し樹木根系の発達を確実にすることを狙うというものです。私たちの研究室では、再生事業が進められている防潮林の中でも後方に位置する広葉樹植栽地について、植栽された樹木の成長を追跡したり、侵入雑草の種組成や繁茂の状況を調べたり、土壌の変化や生物多様性の変化を調べたりしています。

 

持続可能な植物資源の利用に関する研究

森林生態系に大きなインパクトを与えることなく、木質バイオマスの利用を増やしていくためにはどのようにすればよいのか?という課題の解決に向けて、以下の2つの研究に取り組んでいます。

 

バイオマス専焼発電所から排出される燃焼灰の肥料利用


「バイオマス」は注目の再生可能エネルギー

東日本大震災の原発事故をうけ、2012年に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が始まりました。間伐材など未利用木材を用いたバイオマス発電による電力買い取り価格が高く設定されたこともあり、東北地方を含め日本全国でバイオマス発電所の稼働数が増えています。石炭に木材や東南アジアから輸入してきたPKS(パームヤシ殻)などを混ぜて燃やす混焼発電施設は海沿いに、中山間地域の未利用木材を燃料とする小規模の専焼発電所は内陸部に建設計画が数多く存在しています。

課題は燃料となる木材の持続的な確保

木質バイオマス発電には、木材を直接燃焼しボイラーで発生させた高温高圧の蒸気でタービンを回して発電する方式(蒸気タービン発電方式)や、木材を蒸し焼きにして可燃性のガスを発生させエンジン(ガスタービン)を動かして発電する方式(ガス化発電方式)がありますが、これらの方式は従来の石炭火力発電と共通する部分も多く、技術的には概ね確立されており、高効率化に向けた開発研究がすすめられています。

一方で、燃料を地域内に広く薄く存在する森林資源に頼るバイオマス発電は、燃料となる木材を効率的かつ持続的に集め、コストをかけずに含水率を下げ(乾燥させ)、発電所に供給するというシステムをいかに確立するかが大きな課題となっています。木を植えればいいという考えもありますが、木の生長には時間がかかります。木を伐りすぎて山の栄養分が失われてしまえば、木を植えたとしてももとに戻すことは困難なため、生態学的な視点に基づきバランスを取りながら山の木を管理することが重要です。

燃焼灰に含まれる養分を森に戻す手法を探る

木を燃やせば灰が出ます。木材の質量に対して1~8%ほどですが、それでもバイオマス発電所が増えて大量の木材を燃やすことになれば、灰も相当量になります。現在は普通ゴミなどと同様に廃棄物として埋め立て処置されていますが、その費用は発電事業の採算性に影響を与えます。また、埋立処分地の容量を圧迫してしまうという問題もあります。

灰というと廃棄物というイメージが付きがちですが、樹木が土壌から吸収した成分が元になっています。東日本大震災のあと再生可能エネルギーへの期待の高まりを受け、純粋でクリーンなバイオマスのみを燃やした専焼灰は肥料など用途が明らかな場合、廃棄物として見なすことなく有効利用してもよいという指針が示されました。かつて化学肥料がなかった時代は、草木を燃やしてできたカリウムや石灰分を含んだ草木灰を畑に撒いて肥料としていた時代もありましたが、考え方は同じです。ちなみに蛇足ですが、英語でカリウムはポッタシウム(Potassium)と表記しますが、ポッタシとはポット(壺)+アッシュ(灰)、すなわち壺の中にある灰という造語で、もともともとは「植物アルカリ(灰)」を意味していました。肥料の他にも、洗剤や火薬の原料である硝石の製造にも使われていたことから、カリ鉱床が発見される以前は、ポタッシを巡って一国の森林が消滅の危機に瀕するということもあったそうです。アメリカでは、ヨーロッパへポタッシの輸出が行われていたという記録もあり、ポタッシが税金の変わりになっていたという時代もあるそうです。

灰を山に還元する取組はバイオマス先進国であるヨーロッパを中心に、早くから行われていましたが、まだ主流ではないようです。実際に撒いたときの効果の検証だけでなく、灰を山まで持っていくコストや、散布方法の検討など、実用化に向けデータの収集が必要であり、他研究機関と協力を行いながら研究に取り組んでいます。

現在私たちの研究室では、水に溶けやすく雨が降ると早く成分が流されてしまいがちな燃焼灰をゆっくり溶けるようにするための手法の開発(緩効性燃焼灰肥料の開発)や、燃焼灰の散布が森林土壌の微生物活性に与える影響を調べています。

 

 

未利用木材の有効利用法を探る


木材のカスケード利用

長い時間かけて育てた樹木を、エネルギーを取り出すために一瞬に灰にしてしまうのはもったいないことです。カーボンニュートラルとはいえ、樹木がせっかく吸収し固定していた二酸化炭素を短期間で大気中に放出することになってしまいます。極力、木材はマテリアルとして建材や家具などの資材として利用し、副産物や廃棄物となったものをエネルギー源とすることが求められています。例えば、「山から切り出した丸太」⇒「木造住宅」⇒「木質ボードの原料」⇒「燃料」というような利用の仕方です。このような木質バイオマスの利用方法を「木材のカスケード利用」と呼んでいます。ちなみにカスケードという言葉の本来の意味は「いくつも連なった小さな滝」というもので、木質バイオマス利用の分野で使われる時は、使用することによって形状や性質のレベルが下がった木材を廃棄することなく資源として最大限有効に利用するという意味で使用されます。

未利用木材を土木資材(舗装材)として利用する

しかしながら、これまで山に放置されてきた間伐材や、果樹園の脇に野積みされてきた剪定枝などいわゆる未利用木材と呼ばれるバイオマス資源は、利用法が限られているほか、利用にはコストがかかります。そこで本研究室では、未利用木材を燃料以外の用途で使用する方法の開発にも取り組んでいます。現在は、未利用木材を舗装材の原料とする利用法を提案し、製品開発やライフサイクルコストの試算、経済波及効果の試算に取り組んでいます。通常の舗装材は、石や砂にアスファルトを混合して作るのですが、石や砂の変わりに、スギやヒノキの間伐材やリンゴ剪定枝などを利用します。石や砂の舗装材に比べて、軽く、弾力性があり、公園の遊歩道、個人家屋の駐車場などでの利用を考えています。

古くなった木質舗装材は燃料にして灰は再び舗装材に

私達の研究室では、単に木材で舗装材を作るだけでなく、使用後のリサイクル法についても検討しています。中身が木ですので、燃やしてサーマル(エネルギー)利用をし、残った灰は、再び舗装材の骨材としてリサイクルする手法を試しています。 実は石炭の灰も含め火力発電所から排出される灰は、アスファルト舗装材だけなく、コンクリート、レンガの材料としても利用されており、肥料よりもこちらの利用用途のほうが割合としては高くなっています。未利用木材をマテリアルとしてまず使い、使い終わったら燃やしてエネルギーを得て、残った灰もマテリアルとして有効活用するという、カスケード利用の究極の形を目指しています。